こんにちは! ごりら(@goriluckey)です!!
「古典文学」と聞くと学生時代の勉強を思い出して眠たくなる人が多いかも知れませんが、京都に住んでいると身近な場所が登場することがあるんですよ。
この記事では『今昔物語』に描かれる稲荷社の初午大祭でのできごとをご紹介します。
『今昔物語』の巻二十八は平安時代の爆笑ネタが集められている巻なんですが、中でも稲荷社(現在の伏見稲荷大社)での話はめちゃくちゃアホらしい話なんですw
どうぞ、ごりら風味の意訳をお楽しみください!
【意訳】『サラリーマン・重方』-伏見稲荷でナンパ失敗!
今となってはもう昔の話である。
毎年2月の「初午の日」には伏見稲荷で初午大祭が行われる。この日は京都中の人びとが伏見稲荷へ参詣するのが習慣だ。
この話は、いつもの年よりも伏見稲荷へ参詣する人が多かった年に起きたあるサラリーマンの悲劇の物語なのであるッ!!
ぷぷっ!
サラリーマン・重方、伏見稲荷へ行く
この日、悲劇の主人公となるサラリーマンもまた仲間といっしょに伏見稲荷を訪れていたのだった。
彼らは尾張兼時…ん〜読みにくいからこの際ニックネームで進めるとしよう。
登場人物
- カネトキ(尾張兼時・おわりのかねとき)
- ノスケ(下野公助・しもつけのきみすけ)
- シゲ(茨田重方・まむたしげかた)
- TAKE(秦武員・はたのたけかず)
- タメ(茨田為国・まむたのためくに)
- キンちゃん(軽部公友・かるべのきんとも)
カネトキ、ノスケ、シゲ、TAKE、タメ、キンちゃんの6人は後輩たちにお弁当やお酒を持たせて伏見稲荷へ出かけた。
サラリーマン・重方、運命の人に出会う
彼らが稲荷山の山中にある「中のお社」の近くまでやって来た時、たくさんの人たちが行き交う中にひときわ美しい女性を見つけたのだ!
その女性は濃い紫のジャケットをビシッと着こなし、ファッションセンスもさることながら、とにかくセクシーであった。
彼女は彼らのギラギラとした獲物を狙うような目に気がついたのか、その場を小走りで走り去り、木の陰に隠れてしまった。
このゲスなオトコたちは彼女の前を通り過ぎる時に
うっひょ〜!! ねえちゃん、良いケツしてんな〜!!
などとヒワイな言葉をかけてみたり、その女性に近づいて下から舐めまわすような視線で女性の顔を見上げたりしたのだ。
サラリーマン・重方、必死で口説く
中でもシゲはふだんからオンナたらしのゲス野郎なので、妻にはいつも浮気を疑われ、口げんかが絶えない。
この時もついついシゲの悪いクセが出てしまった。
彼はこの美しい女性の横に立ち止まってみたり、女性の顔をずっと見つめたままいっしょに歩き、時にはからだをピタッとくっつけたりしながら必死で口説いた。
すると、その女性はこう言った。
あなた、結婚してるんでしょ? そんな軽い気持ちではじめて会った女性に声かけるってどういうつもりなん?
そう言いはなった女性の声も、シゲにはとても魅力的に感じられた。
今度はシゲが女性に対して言葉を返した。
たしかに、オレな、結婚してるで。でも、実は妻とはぜんぜんうまくいってないねん…
えっ…
うぅ…もしもこんな悲しい気持ちを忘れさせてくれる女性に出会ったら、オレはそのヒトと新しい人生をともにしたいと願ってるんやで、マジで!
ほんまに…?
きっと伏見稲荷の神様も見てるんやな。オレはずっとこの日の出会いを願ってここに来てたんやわ!! 伏見稲荷の神様が今日の出会いを授けてくれたのかと思うと、ホンマに超絶うれしいわっ!!
…
で、その…おねえさんはカレシいてるん?
もはやシゲは気持ちを抑えることができなくなっていた。
一気に口説きにかかるシゲにその女性は言った。
わたしもあなたといっしょ。3年ほど前にダンナを亡くして、良い出会いがあればな〜と思って伏見稲荷の神様にお願いしてるん。あなたがほんまに本気ならLINEの交換ぐらいやったら…
(うひょーっ!! やったーーー!! )
シゲは思わずガッツポーズをしそうになったが、必死で抑えた。
ところがその女性は
ん〜、いや、やっぱりやめとこ!!
はじめて会った人とLINEの交換してもロクなことがないからね。さ、もう早くあっち行って!! じゃあね〜!!
そう言い残して女性は立ち去ろうとする。
急転直下
女性のLINEゲットが目の前にぶら下がっていたシゲは土下座でもするかの勢いで女性にすがりはじめた。
ちょ、ちょ、ちょ…そんなこと言わんといて〜や!! 伏見稲荷の神様もお願い、助けて!! よし、もう家には帰らへんっ!! だからお願い、付き合おう!! な!? もう付き合おう!! お願いしますっ!!
シゲはもうなりふりかまわず、女性に頭を下げた。
その時だった!
その女性は突然シゲの髪の毛をつかみ上げ、思いっ切りビンタをぶちかましたのだ!!
バッチコーンッッッ!!!
ものすごく大きな音が稲荷山に響きわたった。
なにすんねん!!
突然ビンタを食らい、さすがにビックリしたシゲは声を荒げその女性をにらみつけた。
そしてシゲはさらに驚いた!! その女性をよーーーく見ると
な、なんとそこに立っていた女性はシゲの妻だったのだ!!!
えーーーっ!! ウソやろ??
状況が飲み込めずにパニックに陥ったシゲは必死の思いで言葉を絞り出した。
な、なにしてんねん…!?
なにしてんねんちゃうわ!! ドアホが!!
あんたな〜!! わたし、いっつもカネトキとかに聞いてるんやで! 「シゲは女グセ悪いから気をつけや。」って! わたしがからかわれてるだけかと思ってたけど、あんたの友だちが言うてたことが正しかったんやな!!
あぅ…
あんた、もう二度と家に帰って来んなよ!? もしも帰って来たら伏見稲荷の神様のバチがあたって顔面に矢が突き刺さるからなっ!!
あああああ!!! ホンマ、超腹立つっ!!
あんたなんかボッコボコにしたるから、お参りしてる人に笑われとけや、アホがっ!!
鬼のような形相でわめき散らす妻に対して、シゲは言った。
おいおい、まあ、落ち着いて、な!? な!? オレが悪かった!! ごめん、この通り!!
シゲは必死で妻をなだめようとするが、妻の怒りはおさまりそうもない。
一方、シゲの友だちはシゲにこんな修羅場が訪れているとは知らず「あれ? シゲちゃん、どうしたんやろな? 」と振り返った。
すると下の方でシゲが先ほどの女性と取っ組み合いになっているのが見えた。
おーい! シゲちゃんなにやってんねん!!
そう言いながら駆け下りて来たカネトキたちは呆然と立ち尽くすシゲと女性の顔を見てすべてを察した。
うわ〜シゲの奥さん! な!? だからいつも言うてたやろ!?
ホンマ、カネトキの言う通りやな。こいつのゲスっぷりを世の中にさらしてやったわ!!
妻はそう言い放つとようやくシゲの髪の毛を放した。
シゲはグチャグチャになった髪の毛を整えながら、稲荷山の上へと立ち去ろうとした。
妻はシゲに向かって
おまえは好きになったオンナのとこに行けよ!! 帰って来たらマジでブチ殺したるからなっ!!
と大声で怒鳴りつけ、稲荷山を後にした。
サラリーマン・重方、その後
さて、伏見稲荷でボッコボコにされたシゲであるが、そこはさすがにメンタルが強い。なんとシゲは妻のいる家に帰って来たのだ。
シゲの必死のご機嫌取りが功を奏したのか、妻は少しずつ怒りがおさまってきたように思えた。
そこでシゲは妻に向かって言った。
さすがオレの自慢の妻やな! だからあんなに大がかりなドッキリができたんやな!?
ところが、シゲのヨミは少し甘かった。
はぁ〜? だまれや、ボケ!!
あんたなぁ、自分の妻の顔も声もわからんのんか!? 友だちにも笑われて恥ずかしいと思わへんの!? アホちゃうか!!
伏見稲荷でのできごとはすぐに会社中にも広がった。シゲは後輩たちにもネタにされる存在になってしまい、今やシゲは後輩の前でさえもコソコソとしている。
そして、その後シゲは妻よりも先に亡くなってしまった。
妻は今、別の人と幸せに暮らしている。
【解説】『今昔物語』当時の稲荷社・稲荷山
『今昔物語』に描かれた稲荷社(現在の伏見稲荷大社)はどうでしたか?
えっ? シゲの悲惨さしか頭に残ってない!?
せっかくなので『今昔物語』に描かれた稲荷社について解説しておきますね。
伏見稲荷大社の初午大祭
シゲたちが出かけた稲荷社の初午大祭は現代でも続いている伏見稲荷大社の祭礼のひとつなんですね。
伏見稲荷大社の主祭神・稲荷大神がはじめて稲荷山にご鎮座されたと言われる和銅4年(711年)2月11日が初午の日だったと言われています。
平安時代にこの日を記念日としてはじまったのが初午大祭なんですよ。
現代でも初午大祭の日には全国からたくさんの参拝客が訪れるので、伏見稲荷大社は大賑わいになります。
ただ、わたしははじめて『今昔物語』の伏見稲荷ネタを読んだ時に
えっ!? 伏見稲荷大社でナンパ?? 平安時代ってどんな時代やねん!!
と度肝を抜かれました…
ですが、この時代には現代でもよく知られている「下鴨の葵祭」や「八坂の祇園祭」も人気があったんですね。
現代人の感覚からすれば伏見稲荷大社でナンパはともかく「祇園祭でナンパ」というのはイメージできなくもないw
平安時代の初午大祭も現代の祇園祭のような感じだったのかも知れませんね。
稲荷山にある「中のお社」
『今昔物語』でシゲたちが女性に出会った場所に近い「中のお社」は現代の伏見稲荷大社の本殿のある場所とは違い、ご神体である稲荷山の山中にあったんです。
稲荷山にある上中下の3つの社に参詣するのが当時の習わしでした。
当時のお社は残念ながら応仁の乱によって消失してしまったそうです。お社のあった場所には親塚が建てられ、現在は神蹟として残されているんです。
稲荷山は標高233メートルのそれほど高くない山ですので、伏見稲荷へお越しの際にはぜひ『今昔物語』に描かれた稲荷山へも登ってみてください!
まとめ|伏見稲荷大社・稲荷山と『今昔物語』
この記事では『今昔物語』に描かれる稲荷社の初午大祭でのできごとをご紹介します。
現在の伏見稲荷大社はトリップアドバイザー社の「外国人に人気の日本の観光スポットランキング」で2014年から2019年まで6年連続で1位に選ばれ、国内だけでなく外国からの観光客もめちゃくちゃ多くなりました。
特に初午大祭の日はかなり混雑します。
『今昔物語』で描かれたようなできごとが起こるかどうかはわかりませんが、神聖な場所でのナンパは止めておきましょうね!
この記事の現代語訳(意訳)は『新編日本古典文学全集 今昔物語』を参考にしました。
受験勉強を思い出してぶっ倒れそうになることもがありますが、ぐっすり眠りたい時にはおすすめですよw
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実は平安時代の稲荷社の初午大祭は『枕草子』にも描かれているんです。
清少納言が書き綴った稲荷詣もごりら風味に意訳していますよ。ぜひご覧ください!