おそらく多くの人と同じように、わたしは「希少難病」あるいはその制度について専門的な知識を持っているわけではありません。
ですが、難病を抱える人と出会い、お話を聞いていると「おいおい、なんかこの国おかしいぞ!? 」と感じることがほんとうに多いんですよ。
今回は日本で数名しかいない超・希少難病「肢端紅痛症」患者のぐれいすさんの話を聞いて感じたことを書いてみました。
ひとりで戦うよりもふたり、ふたりよりも3人…みんなで戦った方が心強いに決まってる!!
この記事では「肢端紅痛症」についてふれていますが、わたし自身は医学的な知識を持っていません。肢端紅痛症を患うぐれいすさんに直接お話を聞いていますが、わたしの知識不足・理解不足により誤った表現をしている可能性もありますのでご了承ください。
わたしは「肢端紅痛症」という超・希少難病が存在するということ、現在の日本の難病患者に対する支援制度には谷間があるということ、「ドクハラ」に苦しむ人がいることを少しでも多くの人に知ってもらいたいという気持ちでこの記事を書いています。
目次
「肢端紅痛症」を抱えるぐれいすさん
わたしがぐれいすさんと出会ったのはブログのオンラインサロン「ヨッセンスクール」で知り合ったショウゴさんのお手伝いをしたのがキッカケでした。
そのぐれいすさんですが、まあ、まずはこちらの写真を見てください。
か、かわいい…
ちがうちがう!!
確かにぐれいすさんはかわいいですが、わたしが言いたいのは、この女性が日本にたった数名しかいない超・希少難病の患者に見えますか? ということ。
一見するとごくふつうの健康そうな人に見えますよね。
ですが、ぐれいすさんは「肢端紅痛症」…読み方は「したんこうつうしょう」という希少難病を抱えているんです。
しかも、それだけではないんです。
実はぐれいすさんは肢端紅痛症のほかにも複数の病気を患っておられるんです。
「病歴」は一般的にはもっともセンシティブな個人情報のひとつですが、ぐれいすさんはブログ『ぐれいす@肢端紅痛症を広め隊』でもご自身が抱える病気のことを紹介されています。
ぐれいすさんのブログを見ていただくとわかりますが、ぐれいすさんがこれまでに患った病気、肢端紅痛症をはじめ現在も抱える病気の多さに思わず絶句してしまうほどです。
なぜ、ぐれいすさんは病気のことを公表しないといけないのか?
ぐれいすさんが患う肢端紅痛症や現在ぐれいすさんが置かれている状況についてお話しいただきました。
- 日にち
- 2016年11月26日(土)
- 場所
- 大阪市内
- 参加者
-
・ ぐれいすさん 『ぐれいす@肢端紅痛症を広め隊』
・ ショウゴさん 『筋ジスですがなにか?』
・ めいたくさん 『底辺×高さ×自分』
肢端紅痛症とは!?
おそらく「肢端紅痛症」という病名を聞いたことがあるという人はほとんどいないと思います。
それもそのはず、お医者さんでさえわからない病気なんですから…
この病名が発覚したことさえ奇跡なんです! 病名がわかった時もお医者さんが医学書をいっぱい持って来て「あの〜これだと思うんですけど…」って言われて発覚したんです。
もう一度、読み方を書いておきますね。「肢端紅痛症」は「したんこうつうしょう」と読みます。
肢端紅痛症の症状は、手や足の血管が拡張し、皮膚の温度が上昇、激しい痛みを伴うそうです。
ぐれいすさんにお話を聞いたのは11月末だったので症状は落ち着いていたそうですが、気温が高くなる夏は手足が赤く腫れ上がるんですね。
この時も写真ではわかりにくいですが、指先が赤く膨張しているように見えました。
わたしがぐれいすさんのお話を聞いて思わず耳を覆いたくなったのが肢端紅痛症の痛みの表現なんですね。
症状が出た時は水で冷やしても意味がないんです。だってすぐにお湯になるんですから。
火傷で言うと「深達性II度」なので、炭化の直前のレベルなんですよ。
炭化…!?
情けない話ですが、わたしはこの表現を聞いただけで失神しそうになってしまいました。炭化直前の痛みっていったい…。
その激痛により歩けないため、ぐれいすさんは2年ほど前から車椅子生活をされています。
実は肢端紅痛症は先天性と後天性があるんですね。
後天性の場合はほかの疾患の二次性のものであることもあり、原疾患(この場合は肢端紅痛症の原因となっている別の疾患)を治癒することで肢端紅痛症が治ることもあるそうです。
ですが、ぐれいすさんが抱えている先天性肢端紅痛症は現在の日本には専門医がおらず、治療方法がありません。
先天性肢端紅痛症の患者はわたしのほかに日本にはもうひとりしかいないんです。後天性の患者さんも10名いらっしゃるかどうかのレベルなんですよ。
「50年前に患者さんがいたようだ」と言われたこともあります。
なるほど…実際に患者数が少ないから専門医どころから研究対象にさえならないんですね。
なので、当然いつまで経っても治療方法が確立されないという負の連鎖が生まれてしまいます。
「先天性肢端紅痛症」患者・ぐれいすさんに襲いかかる敵
歩けなくなるほどの激痛が伴う病気で治療方法もない…もしも自分が同じ状況になったとしたら、とても耐えられる自信がありません。
身体的な苦痛を取り除く手段がないのであれば、せめて精神的・経済的な支援を求めたいと思いますよね?
ですが、超・希少難病患者であるぐれいすさんが置かれた状況は想像を絶するものでした。
「日本に数名」とか「希少」という文字、あるいは「先天性」という言葉の印象から「難病は自分には関係のないこと」と思ってしまう人もいるかも知れません。
ですが、難病になる可能性は実は誰にでもあるんですね。例えば、身体能力が高く、健康管理に気をつけているプロ野球選手でさえもある日突然難病を患うことだってあるんです。
しかも、世界中に難病と言われる疾患はおよそ7,000あるんですが、難病法に指定されているのは300疾患程度なんですよ。
つまり、現在のぐれいすさんが置かれている状況になる可能性は誰にでもあるということなんですね。
ドクターショッピング
ぐれいすさんにお話を聞かせていただく中で、耳を疑うようなことやはじめて聞いた言葉がたくさんあったんですが、わたしは「ドクターショッピング」という言葉もはじめて聞きました。
ようやく病名が判明した病院で「治療方法はわからないので自分で探してください」って言われて、わたしの「ドクターショッピング」がはじまったんです。
文脈から言葉の意味は想像できましたが、『ウィキペディア』に記載されている「ドクターショッピング」はぐれいすさんが置かれている状況でのそれとは少し違うように感じます。
原因
- 患者が十分な医療を受け、最良の成果を得たにもかかわらず、より良い成果を求め、次々と医療機関を変える。
- 患者に疾患の性質を理解する能力がなく、インフォームド・コンセントや検査・治療が十分に行われないまま、医療機関を変える。
- 患者が薬物依存状態にあり、限度上限の薬物を入手すると、違う医療機関を受診する。
- 診察・検査では、診断を下すことが難しい疾患のため、さまざまな診療科を受診する。
- 診断結果が芳しくなく、患者自身にとって都合の良い診断を下す医師が現れるまで新たな医療機関を受診する。
※ 『ウィキペディア』より引用しました。
特にわたしの場合は「ドクターショッピング」という言葉をぐれいすさんの話で知ったこともあって、『ウィキペディア』に書かれているドクターショッピングの原因にはものすごく違和感があるんですよね。
なんだか「ドクターショッピング」ってまるで患者が悪いかのように書かれていますよね。
ですが、ぐれいすさんの場合はそもそも医療機関側が投げ出しているんです。実際にぐれいすさんは関西圏でもトップクラスの大学病院、町の皮膚科、遠いところにある病院…いろいろな病院をまわったものの、どこの病院でも治療方法が見つからなかったんです。
最終的にはぐれいすさんの病名が「肢端紅痛症」であると判明した病院に泣きつくしかなかったんですね。
1年間探し続けたけど、病院が見つかりません。どうにかしてほしい…
とは言うものの、その病院でも治療方法がないことに変わりはなく、「痛みをやわらげることしかできない」という理由で麻酔科を紹介されたそうです。
そこでぐれいすさんを待っていたのは、信じがたい「ドクハラ(ドクターハラスメント)」だったんです。
ドクハラ(ドクターハラスメント)
わたしは「ドクハラ」という言葉を聞いたのもはじめてでした。
「セクハラ」「パワハラ」「アカハラ」…もちろんどのハラスメントも被害者にとっては人生を左右する、あるいは命にもかかわる重大な問題です。
ですが、わたしは今まで聞いたどんなハラスメントよりも「ドクハラ」には怒りを覚えます。
だって、治療方法が確立されていない難病の患者さんにとって、お医者さんってもっとも患者さんに寄り添うべき存在ですよね。そのお医者さんが…
ドクハラっなんやねん!?
「ドクハラ」をするようなヤツってお医者さんでもなんでもないですよ。
ぐれいすさんは肢端紅痛が原因で、現在は車椅子がないと生活できない状況なんですね。肢端紅痛症は「難病法」における「指定難病」ではないので医療費の助成を受けることができません。
なので、ぐれいすさんは「身体障害者手帳」と「障害者年金」を受給するために主治医に診断書を書いてもらおうとお願いをしたんです。
役所から「身体障害者手帳」を支給するために診断書を書いてもらってくださいと言われました。
身体障害者手帳? 手足あるでしょ!? わたしはそれを病気とも障害とも認めないよ。
お医者さんのイラストがそれ以外のイラストに見えることがあるようです。ご安心ください、あなたは「正常」です。
こんなことを言うのもなんですが、わたし、こんなヤツが目の前にいたら自分をおさえる自信がないですよ…。
わたし自身はドクハラの経験はありませんが、いっしょにぐれいすさんのお話を聞いたショウゴさんも同じような経験をされているそうです。
ショウゴさんは「ベッカー型筋ジストロフィー」という難病の当事者なんですね。
ぼくもありますよ。日常生活で気をつけないといけないことを質問したんですが、ぜんぜん真剣に向き合ってくれなかったですよ。
相手にされないんです。だから自分で考えるしかないんですよね。
いや…ホンマに難病の人に対してこんなひどい対応をするお医者さんってどういう志でこの仕事に就いているんでしょうか…。
難病患者が陥る「制度の谷間」
ぐれいすさんの場合はドクハラというよけいな敵まで相手にしないといけないハードな状況ですが、「制度の谷間」というのは難病を患うたくさんの人が陥る問題なんですね。
2015年1月1日付で施行された難病法により難病医療費助成制度の対象となる指定難病は306疾患に拡大されたんですが、実は難病とされる疾患はおよそ7,000もあるんです。ぐれいすさんの先天性肢端紅痛症は指定難病には入っていません。
指定難病に入るためには難病の4つの条件に加え、さらに2つの条件が必要になるんです。
難病の定義
- 原因不明(発病の機構が明らかでない)
- 治療方法が確立していない
- 希少な疾病
- その病気によって、長い間療養を必要とすることとなるもの
指定難病の定義
- 患者数が日本国内で一定の人数(人口の0.1%)に達しないこと
- 客観的な診断基準(又はそれに準ずるもの)が確立していること
※ 『ウィキペディア』より引用しました。
ぐれいすさんの場合、「客観的な診断基準(又はそれに準ずるもの)が確立していること」という条件が該当していないんですよ。
だって、日本には専門医さえいないんですもん…。
ぐれいすさんと同じようにこの制度の谷間に陥っていてしまい、医療費の助成を受けることができない人はこの国にものすごくたくさんいらっしゃいます。
わたしたちにはなにができるのか?
ぐれいすさんのお話を聞かせていただくと、「ドクハラ」はともかく「制度の谷間」という問題を解決するのはめちゃくちゃ大変であることがわかります。
すべての難病に対して平等に費用がかけられて研究が進むのが望ましいですが、当然そういうわけにもいきません。
指定難病が306疾患になったことで、受給者数、医療費助成はこんなふうに変化しています。
- 指定難病=56疾患(2011年)
- ・ 受給者数: 約78万人
・ 医療費助成: 1,190億円(実績)- 指定難病=306疾患(2015年)
- ・ 受給者数: 約150万人
・ 医療費助成: 2,221億円(予算)
※ 『ウィキペディア』より引用しました。
どうしても莫大なお金がかかってしまうので、やっぱり問題解決には時間がかかってしまいそうです。
(いや、無駄な事業に使っている税金がいっぱいあるやろ! という気持ちもありますが。)
では、わたしたちにはいったいなにができるんでしょうか?
難病を抱える人の声に耳を傾けよう! いっしょに声をあげよう!
正直、わたしには具体的な解決策が思い浮かびません。
以前、別の難病患者の方に話を聞いた時にも「パブリックコメントを発表してもなかなか声が届かない」という状況を訴えておられたんですね。
ぐれいすさんもブログ『ぐれいす@肢端紅痛症を広め隊』やTwitterで情報発信されています。
まず、わたしたちのだれもができることって、ぐれいすさんのように難病を抱える人の必死の訴えを他人ごとと考えずに耳を傾けることだと思うんです。
ぐれいすさんのお話を直接聞く場をセッティングしてくれたショウゴさんが以前ブログでこんな記事を書いておられたんですね。
この記事の主旨は、「難病と戦うよりもむしろ難病であることを利用して自分をブランディングしよう」というものでした。
ですが、今回ぐれいすさんの体験を聞かせてもらい、難病そのものと戦う(痛みに耐える)ということはもちろんですが、本来は味方になってくれるはずのお医者さんや制度の谷間といったさまざまな敵と戦わないといけないんだということを実感しました。
実際にぐれいすさんはドクターショッピングや身体障害者手帳の申請などさまざまなことをひとりでされているんですね。ひとりで戦っている。
きっと難病を抱えるたくさんの人が少なからず孤独を感じる瞬間があるんじゃないかって感じています。
でも、ひとりよりみんなで戦った方が良くない?
例え、今の難病法を変えることができなかった…つまりは勝てなかったとしても、ひとりでも多くの人といっしょに戦った方が心強いじゃないですか。
参加しよう! 「RDD(Rare Disease Day)」
ショウゴさんに教えてもらった「RDD(Rare Disease Day)」というイベントがあります。
これは毎年2月末に世界で同時に開催されるイベントで、日本語では「世界希少・難治性疾患の日」と言われているんですね。
わたしはこのイベントを「難病のことをみんなで考える日」というふうに理解しています。
わたしは2016年2月28日に京都で開催されたRDDのイベントに参加して、難病の方の話を聞かせてもらうことができました。
ほんの少しの時間でも立ち寄って難病の方の話を聞いたり、パネル展示を見たりするだけでも良いと思います。
わたしは来年もRDDのイベントに参加するつもり。
この記事のまとめ
ぐれいすさんのお話でわたしが一番衝撃を受けたのはやっぱり「ドクハラ」ですね。
希少難病の治療法の確立や難病法の改正にはものすごい時間と費用がかかるヘビーな問題ですが、「ドクハラ」は気持ちの持ち方だけですよね。
わたしたちみんなが「難病を抱える人をたった一人で戦わせない」という気持ちを持っていればドクハラなんてありえないわけですから。
ぐれいすさんのお話をいっしょに聞かせてもらっためいたくさんの記事もぜひご覧ください。
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だれもが希少難病を患う可能性があります。希少難病だけでなく、どんな病気にも言えることですが、やっぱり早期発見できることがもっとも重要なんですね。
ですが、特に希少難病の場合はお医者さんが病名さえ知らないということがあります。「医療クラウド」や「AI」という技術が発達することで、希少難病であっても早期発見できる可能性が飛躍的に上がるかも知れません。
そんな未来になればお医者さんは本質的に患者さんと向き合うことができるようになるので、ぐれいすさんにドクハラをするようなヤツは淘汰されていくはずです!
こんにちは! ごりら(@goriluckey)です!!